今から12年前に、私が日本の会社の海外開発拠点=ベトナム支社の管理の職に就きました。一緒にいた戦闘仲間が日本本社からの経営メンバーの先輩。
数ヶ月も経たないうちに二人がすぐに直面した課題は、社員が会社を辞めたいと言い出す。それも一人だけではなく、次々と。
なぜ?と聞いたら、本当に理由は様々。家族の事情でいったんは田舎に帰らないといけない。いったんは大学に戻りたい。留学したい。割合が少ないけど「自分の成長のために、違う仕事に挑戦したい」と言う子もいた。 「給料を上げて欲しい」「実は他所の会社からもっと高いオファーをもらっている」と言う子は一人もいなかった。
でも、これが本当の理由だと、その後私が知りました。
そしてそこで気づいたのは、日本の会社の経営・マネジメントのノウハウには、「人を留める」「リテンション」という概念がまったくないと言っても過言でない。
日本の会社の仕組みは、終身雇用の副(?)産物なのだろうか、社員は絶対に会社を辞めることがない、一生同じ会社で働く、という前提で作られている。
だから、大手は長い期間かけて新人教育をし、3〜5年経ったところでやっと一人前になって一人で仕事をこなせるようになる。以降同じ仕事を10年以上続けてやっとポジションアップか、別の部門に移動させそこでまた勉強し始める。部署の移動や、場所(地方)の移動も人事から辞令が出て、社員はそのままにしたがい、泣く泣くしても断ることはまずない。給料はほぼ毎年自動的に(1%ぐらい)上がる。40年同じ会社で働いて最後に定年退職したところで大きな退職金がもらえる。
そんな環境で育ってきた経営者が「家族の事情で1ヶ月くらい田舎に帰らないといけないんだから、会社辞めます」と聞いたら大驚きだろう。
ここで言う家族事情とは、自宅の建て直し工事だったり、あるいは両親が病気にかかってしばらく看病が必要だったり。どれも日本人の常識としては「そんなので会社辞めるもんか???」と思うものばかりでしょう。
ベトナム人の20代のエンジニアは特に、そんな程度の事情で会社を辞めて、いったん田舎に帰って家族の事情を済ませ、約1ヶ月でまた都会に戻って新たに仕事探し活動をするのです。そして、だいたいすぐに仕事見つかるので、大して困らないわけです。だから、彼らにとって「会社を辞める」ことは、そんな大きく悩むことでもないのです。
ましてや、「事情」とはただの言い方であり、本当はもっと良い会社と話がついた、という場合の少なくない。「もっと良い会社」の定義は人ぞれぞれだが、給料が高いとか、仕事が面白そうだとか、そこに仲の良い友達と一緒に働けるとか、場所がもっと自宅に近いとか。
社員が辞めると言い出した時に、話し合いで「では、ちょっと給料上げましょうか?」で意思が変わって会社に残ってくれることも多い。ただ、経営者としてはこれが一番取りたくない手。
私はあれからずっといろんな会社の仕組み、様々は失敗例成功例を観察してきました。
結論、当たり前でありますが、外国、とりわけベトナムは、日本と違う!ので、日本人の(無意識な)常識を変える必要があります。
【やってはいけないこと】
・人が辞めない前提を置くこと。人は辞めるもの。会社への忠誠心など忘れてください。
【やっておくべきこと】
・人が辞めても大丈夫な仕組みを作ること。特定な1個人に依存しない仕事の仕組みを作ること。
・人を留めるためのリテンション活動を頑張ること。
ここまで言っておいてベトナム人はすぐに辞めて当たり前!という印象を与えてしまっているかもしれないが、入社して1〜2年で辞めてもおかしくないシステム開発エンジニアの世界でも10年以上続けてまだまだ仲良くやっているところがたくさんあります。好きな会社、好きな仕事、好きな仲間たちとはずっと一緒に働きたいのです。
これが「リテンション」活動の核心ともなります。
詳細はまた次回。