top of page
  • 執筆者の写真Ngoc

終身雇用制度が個人と企業の競争力を下げている

更新日:2020年5月13日

日本企業のマネージャーたちが人事マネジメントについて何もわかっていない

2006年頃、私が東京にあるシステム開発企業のオフショア開発拠点を立ち上げるという任務をもらってベトナム・ハノイに赴きました。ベトナム人のエンジニアを採用し、日本からもらった開発案件に配属。ウェブ開発、PHPやJavaのプログラミングの仕事が主だった。

開発はそれなりに順調だったが、半年も経てば、エンジニアのほぼ全員(!)が「辞めたい」と言い出した。一部が給料を交渉して上げてくると残ってまた働くが、一部は決心して給料交渉にも応じなかった。


そこで私が気づいたのが、日本の社長はじめ、マネージャー層全員、「人事マネジメント」について何も知らなかった。

人事とは給料を払う、社会保険を払う、ということではない。

年末評価とは、とりあえず50ドルを上げればOKということではない。

人とは高い給料をもらえれば喜んで働くということではない。

日本人のマネージャーたちは明らかに「社員が辞職する」という問題に対処する経験がほぼゼロ。日本人の社員が辞職することが滅多にないからだ。


日本人のマネージャーたちの常識は、社員が辞めない、何を言っても黙って従うもの。「こんな仕事が嫌だからやりたくない、変えてくれないと辞める」と平気で言ってくる若いベトナム人エンジニアを悪い子と見ていた。


私は運よく、彼らの話をもう少し近くに聞くことができた。 彼らも別に転々として職場を変えたいというわけではない。異常なぐらい高い給料を求めて上司を困らせたいわけではない。会社の都合、案件の都合を全く考えない困ったワガママな子たちでもない。

彼らはただ「このままだと私はどうなってしまうのか?」ということだけ。


彼ら若いエンジニア社員が本当に考えていたことは

・この会社に働いている私は1年後、3年後、5年後、どのようなスキルを身に付けることができるか?それによってどのようなポジションにつき、どの程度の給料がもらえるか?

・どのようなパーフォーマンスを出せば、どのような評価になるか?

・私がこの会社で身に付けたスキルは、世界で通用するスキルかどうか?

・私が尊敬して日々見習う存在がいるかどうか?学ぶ機会、経験する機会がどのぐらいあるか?

これらの質問に明確な答えが見えなければ、彼らは答えを求めて他職場を探し始める。


自分で自分のキャリアを考えることは「人生100年時代」だからでもなんでもなくいたって当たり前

日本では最近、、終身雇用も終わりだという大物の方の発言もあったり、人生100年時代だからと言ったり、「自分のキャリアは自分で考える時代だ!」という宣伝広告を目にすることが多くなっている。

いまさらというべきか、やっと気づいてくれたというべきか。


これまでの日本の会社員人生の常識は、就職活動だけはとても慎重に行い、人によっては20社以上も面接を受けたりする。その慎重に慎重に選んだ結果一社を選んで入社したら、そこで一生働く。だから途中で嫌なことがあっても、嫌な上司に出会っても、嫌な転勤令が出されても、我慢して耐えることが普通だ。その分、クビされることもなく、耐えて毎日出勤だけでもしていれば、毎年自動的に給料があがる。定年になったらそれなりの年金で老後の生活も安心。


辞めて転職することを考えていないから、自分のスキルがなんなのか、そのスキルが世界に通用するかどうか、自分の価値がいくらか、を考える必要がない。考えない。

パーフォーマンス評価、結果評価がしっかりされずただ年を重ねれば給料も上がるものだから、自分で勉強し、スキルアップし効率アップし、より高い成果を出す努力をする必要もない。

自分が次に付くポジションは自分が考えて決めるではなく(多くの場合現場を全くわからなず)人事部が決めて移動令を出すものだから、自分のキャリアを自分で考える必要がない。そのキャリアのために努力する必要もない。


だから日本のマネージャーたちは、「一生同じ会社にいることなんて毛頭考えてない!」というベトナム人社員の考え方を理解できず対処に戸惑っていた。


彼らにとって、会社とはあくまで自分のキャリアプランを積み立て上げるための手段である。自分の次のステップを歩むための階段を今の会社が提供できなければそれを提供してくれる次の会社を探す。シンプルに。

彼らは「会社の都合を全く考えていない困ったワガママな子たち」ではなく、自分の人生をしっかり考えている子たちなのだ。


リテンションのヒントはマスロー階層にある

社員を引き留める方法を考えたことがないマネージャーたちが「給料を上げてくれないと辞める」という言葉を真に受けて給料を上げても、また同じことが繰り返され、次第に「こんな給料は払えない」という限界になり、仕方なく諦めることに。


なぜなら社員が本当に求めているのは「給料」ではない。


もちろん高い給料をもらえれば誰もが喜ぶ。

ただ「給料のために、生計のために我慢する」という考え方は、既にそこそこ高い給料をもらっているそれなりの社会地位にいるソフトウェアエンジニアが考えることではない。

マスロー階層に照らしていれば彼らは既に上の段にいるからだ。


経営理論が進んでいるアメリカ方面では書籍やコース内容がたくさん出ており、「リテション」等のキーワードで探せばたくさん出てくる。日本では聴き慣れていない言葉かもしれない。日本語の書籍が少ないかもしれない。


他所では「リテンション」は会社経営の中の一つ大きな仕事で、トップレベル(CHRO等の役職)で担って行われたりしているもの。その活動の理論根拠の多くは「社員が何を求めているか?何をすれば社員が満足してくれるか?」というマスローの欲求階層からヒントを得ているものが多い。


そして、ソフトウェア開発エンジニアという、変化が極めて速い世界にいる若い人たちにとって、共通してある一つの大きいな欲求は「学ぶ欲求」なのである。

これを理解していない日本人マネージャーは、外国人社員を前にしてたくさん苦労するだろう。


新入社員の教育に5年かけてやっと1人前なんて言ってられない

海外に出ている日本の経営者、おそらく全員が「離職率が高い」ことを一つの大変さとして、リスクとして考えているだろう。

ところが「離職率が高い」、つまり、「社員がすぐ辞めてしまう」ことは、「他社の社員をすぐ採用できてしまう」ことに等しい。この流動性の高い人材マーケットのありがたさにみなさんが気付いているのでしょうか。


これまでの日本の会社員人生の常識は、新卒から入社してそのまま一生同じ会社で働くことなため、経営・マネジメント体制として、社員が辞めていくことに対処していないし、同時に中途採用にも重点を置いていない。


これまでの日本の会社員人生のもう一つの常識は「新入社員はまともに仕事できず、上司が手をかけて指導し、5年経ったところでやっと一人で仕事を担当できるようになる」。

それも、日本では「社員が一生辞めない」という前提に立っているから、そんなにゆったりとした教育ができるわけだ。

離職率の高いマーケットでは、5年どころか2、3年で辞められてしまうことも。


当然、一般的に外国人は日本人より優秀というわけではない。つまり、日本人が5年かけて学ぶ内容ならば、外国人も同じ内容を取得するためにたいてい5年はかかる。

ただし、「全部しっかり学んでからやっと現場で仕事」ではなく、学びながら、最低限のスキルでもその分でできる仕事をし、ちゃんと採算を出す。そういう仕組みを会社が作れていれば、途中で辞められても会社が「損する」ことはない。

そして「総合職」という「何でも屋」ではなく、ポジションを定義し、各ポジションに必要なスキルセットを定義していれば、社員それぞれが行きたいところに重点を置いて学ぶ内容を絞り、段階的に学ぶ計画を立てることもできる。

その結果、「5年間分の内容」が分解され、かつ短縮することもできる。


そして「ポジションを定義し、各ポジションに必要なスキルセットを定義する」ことは、中途採用の成功の鍵にもなる。


終身雇用制度が確実に日本の個人と企業の競争力を下げている

終身雇用制度の恩恵を受け、日本の会社員は成果を出さずにも年を重ねれば給料が上がる。そのような甘えた環境に生きている人間は

・仕事の効率を上げる、成果を出すための努力をしなくなる

・自分でキャリアプランを立て、そのために新しい知識を学ぶという意欲もなくなる

・次第に自分で考え、自分の意見を出すこともしなくなる。

次第に人間の底力を失っていくわけである。

そんな人間が集まっている集団だから、会社の競争力が低下しないわけがない。


ちょっと考えてみれば、「何も頑張らなくても給料が年々上がる」なんて、実はとても理不尽だ。これだけを外れていれば、世界が180度変わるはずだ。

・個人が自分のスキルアップ、キャリアップ=給料アップのために努力する。

・その結果会社全体の効率が上がる。

・仕事の効率が上がる分、全体の平均給料も上がる。

・日本全体の給料が上がれば世界の優秀な人材も日本に集まってくる。


必然的であるが、自分の考えをしっかり持って自分の意見をはっきり言っている「ワガママ」な従業員を持つマネージャーは楽していられないので、次第に企業のマネジメント体形、マネージャーの腕は上がる。

強い個人を束ねられて同じ方向に向けられる企業は無敵となる。


世界で日本の競争力を上げる鍵がここにあるのではないかと思う。

閲覧数:419回0件のコメント

最新記事

すべて表示
bottom of page